ポジティブ・アレルギー

物事を顧みず、ひたすら自身にとって都合の良い部分だけを見て突き進まなければならない、ポジティブ社会への拒絶反応

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経済成長は生活・労働環境改善の必要条件であって十分条件ではない

景気が上向きになり、平成25年度大学等卒業者の就職率は94.4%、高校生の就職率はバブル期並みの水準と報じられている。一部地域、一部業種ではパートやアルバイトの働き先も増え、それによって日本を代表するブラック企業のワタミやゼンショーが運営する店舗に働き手が中々集まらないことが話題になっている。そしてそれに関連付けて、「経済成長、デフレ対策こそ最大のブラック企業&貧困対策」みたいな主張もよく見かけるようになった。

確かに、生活・労働環境の改善のためには経済成長が必要になるのは間違いない。しかし、それがそのままブラック企業&貧困対策になるという主張には疑問を覚える。
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例えばうちの父はとある工場で半非正規(元々非正規だったが親戚のコネで準社員という微妙なポジションを設けてもらった)で働いていたが、そこの給料はバブル期も今も同じである。何が違ったかと言えば仕事量だ。バブル期は毎日14,5時間働いていた。残業代は出たが、有給なんて使える雰囲気ではなかったらしい(使えば辞めざるを得なかっただろう)。要するにブラックだったわけだ。

一度父がそこでの仕事を辞めて赤帽を始めると言い出したことがあって、皆で止めた。赤帽が如何にやばいかという知識は皆話に聞いて知っていたからだ。あの時赤帽を始めていたら、うちの一家はとっくの昔に全員死んでいただろう(妹だけは何とか生き残っていそうな気もするが)。

その時期、父にでも就けるもっとまともな働き口が潜在的にあったのかどうかは分からない。だが、年齢もある程度いっていて、特別な技能も持たない者には似たような環境の職場しかなかったのではないかと思う。例えバブルでも。その前に働いていた物流系の職場も色々酷かったようだし(商品をくすねるのが習慣になっていて、お前も貰っとけ、みたいに渡してくるらしく、それが嫌で辞めたらしい)。仮にもっとマシなものが存在していたとしても、そこに辿り着く能力が無かったのは確かだ。底辺に落ちる人間というのはそういう能力が決定的に欠けていて、それ故そこに落ちるわけだから。

何にせよ、そこで絶望工場に踏み留まったからこそ所帯を維持できたわけだが、毎日もの凄く疲れた感じで帰ってきては数時間寝て直ぐにまた働きに行く父の姿は、労働とは如何に糞か、ということを自分の脳髄に刻み込んだ。自分の場合子供時代も常に暗黒時代だったが、その先にある未来もまたこんな感じなのかと思うと、益々気分が落ち込んだ(そこから逃れる可能性の存在すら想像できなかったし、ただ現在の苦痛を我慢することだけで精一杯だった)。

そのころは借金もあり、両親共に常に暗い顔をしていた。そして常にうちには金がないぞ、金のことは言うな、というオーラを嫌と言うほど出してくるのだった。だから体育館シューズや上履きが小さくなって履きづらくなっても中々新しいものを買ってくれとは言い出せず、ずっと我慢して履いていたのを覚えている。

それに加え、周りは景気が良くて浮かれているのに、にもかかわらず自分の家は貧乏、という対比がまた辛かった。バブル期には色んなおもちゃがブームになったが、貧乏な家の子が買って貰えるのは常にパチモンばかりなのだ。パチモンのルービックキューブは硬くて回しづらかった。

とにかくバブル期は本当に惨めだった。その後の不景気以上に。

――これが自分のバブル期の思い出だ。もちろん、これはあくまで個人の体験でしかない。だが、バブルほどの経済成長があっても、貧困の問題が無くなるわけではないというのは事実だ。自分の家よりもっと貧乏な家もあったわけだし。

だが「一億総中流」というフレーズが示すように、バブル期にはそれが存在しないことになっていたのだ。或いは認識されても「単なる努力不足」としか見られなかっただろう(人生が上手く行く人間が増えれば増えるほど、ちょっと努力すれば誰でも平均程度の生活環境を手に入れることができるはずだ、という努力信仰、バイアスもまた強まる)。そうなればそれに対するまともな対策が取られることもなくなるだろう。経済成長にはそうした副作用もあるということだ。

しかも景気が良くなればその分物価もまた高くなるわけで、にもかかわらず底辺の賃金がそれほど上がらないとすれば、景気が良くなることでかえって生活が苦しくなるというような層が出現する可能性がある。こういった問題は経済成長やデフレ対策では対処できない。つまり「最大の対策」にはなり得ない。「経済成長、デフレ対策こそ最大の貧困対策」と言う人はよく脱成長主義を嗤うが、自分はこういった問題を軽視し続けてきたこと、つまり経済成長に伴ってシッカリとそれに見合うだけの還元が下の者にもなされるシステムを構築出来なかったことが、脱成長主義を生んだ一つの原因だと思っている。

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こういったことは貧困問題だけでなくブラック企業問題についても言える。最近でこそ漸く法令遵守の問題がクローズアップされてきたものの、これまで長年多くの企業が法律を無視した運営を続けてきたのは周知の事実だ。バブル期ほどの経済成長があってもだ。つまり、デフレ脱却、経済成長だけではブラック企業はなくならないということだ。

すき屋が人手不足で開店できない店舗が出てきた、だから経済成長こそ一番のブラック企業対策だ、みたいな話にしても、その人手不足で大変なはずのゼンショーの売上高はむしろ伸びている(利益率は下がっているが)。

(株)ゼンショーホールディングス【7550】:連結決算推移

皆「ざまあみろ」みたいなことを言っているが、これを見る限り、全然効いていない。

そして景気回復の波に乗って頭角を表した新鋭もまたこんな感じだ。

【新・外食ウォーズ】2015年に年商300億円へ - フードスタジアム

「『あさくま』には優しい善良な店長が多くてこれまで怒鳴ったことがない人ばかりだった。そこで練習させました。例えば今月の方針を発表する場で興味なさそうに横を向いているスタッフがいるというシーンを設定。そこで私が『コノヤロー 聞いているのか! こっち向け』と雷が落ちたような怒鳴り声をあげ、手本を見せる。それから店長に『今の通りにやって!』と指示し、練習させる。同じようにして、『人の話を聞けないのかコノヤロー』『人の話を聞いている時は目を見ろ!』と力いっぱい怒鳴りつけたり、『よくやった!偉いぞ』などと感情を込めて褒める練習を6時間以上行った。最初はうまくできないけれど練習しているうちにはだんだん大きな声が出るようになったり、気持ちが入るようになるものです。テンポスの店長・社員研修などでは大声を出させる訓練があり、ヘトヘトになるまでやらせます。それを訓練しているうちに限界以上のもっと大きな声が出るようになって、そこで個人個人が達成感を味わうようになるのです。」

こういうのを見るとウヘェとしか思わないが、ブラックに染まらないことを「甘え」と考える人達もまた大勢いて、それは決して少数派とは言えないだろう。

その上、市場原理が働き始め、人々が予めブラックと判別している職場を忌避するような動きが見え始めるや否や、早速助成金などで市場介入し、市場の機能を台無しにしようともくろむ動きも出始めている。

ワタミやゼンショーに「ブラック助成金」? 厚労省の「人手不足対策」に警戒の声 - BLOGOS

重要なのは、自民党がわざわざ渡邉美樹を迎え入れたことに象徴されるように、ブラック企業をブラックなまま温存させねばならないと考える勢力があって、それは決して小さなものではないということだ。それをデフレ脱却、経済成長さえすればよい、として放っておけば、どんどんブラック企業にとって都合よくルール改正がなされていくだけだろう。

現に、ブラックな環境の下で下っ端の者を使い捨てにするのが経済効率的に良い、とする経済学的言説があり、政策面においても、どちらかと言えばそのような方向性の説に則ったものが採用されてきたのではないか。個人による違法行為がどんどんクローズアップされ、厳罰化の方向に向かった一方、企業による違法行為については逆に見過ごされ続けてきたのも、それが「識者」達の中で経済成長的に有益だという一定のコンセンサスがあったからこそではないか。つまり、それは経済成長を妨げないため(――即ち景気対策)、という理由で意図的に見逃されてきたという面があるのではないか。

そうでもなければ、双方に対するこのような扱いの差は説明できないように思える。「成長戦略」として残業代ゼロ法案(違法の合法化)が審議されているのはその典型だろう(この法案も派遣法と同じく、無際限に拡大するのが初めからの狙いであることは明白だ※1)。

 ***

デフレ対策は、これから底辺に落ちるのを未然に防ぐという意味では「最大の対策」と言えるかもしれない。だが既に実際にそこに落ちてしまっている人、経験を積む機会を失い、現在どれだけ頑張っても何のスキルキャリア・アップにもならないような仕事をしているような人達にとっては、決してそうとは言えないだろう。

実際、「景気回復」「人手不足」が喧伝される現在においても、自分の周辺では全く雇用条件が改善する兆しは見えない。

以上のことから自分は、バブル期ほどの経済成長があっても、(土方系など一部業種を除く)底辺ではさほど賃金は上がらず、糞な仕事が糞なまま増えるだけで、それだけではさほど生活環境や労働環境は改善されないのではないか、という認識を持っている。底辺には「ボーナスで還元」も株高による収入増加もないし。

「最大の対策」説を述べる人の多くは、よく、弱者の見方のであるはずの左派が福祉ばかり唱えて雇用環境改善のために必要になる経済成長を軽視している、むしろ弱者を苦しめている、と馬鹿にする。だが経済成長こそが「最大の」ブラック企業&貧困対策となってしまった時、それは「弱者の見方であるはずの左派の脱成長主義」の単なる逆バージョンでしかなくなるだろう。

経済成長のための対策と再分配や労働者保護のための法整備と適切な運用は「ブラック企業&貧困対策」に必要な車輪の両輪であり、それらがどちらも等しく重視されねば対策として上手く機能するはずもないのだ。

もしそうでないと言うなら、せめて「最大の対策」が上手くいった結果、実際に底辺にいる人達の賃金や生活費はどのようになって、労働環境はどのように改善すると予想しているのか、それを具体的に示してもらいたい。そういう具体的な予想があれば、後でその説に対する検証も可能だ。だが実際は、肝心の内容に関してはうやむやなまま、イメージだけ先行してこういった説が力を獲得して行っているように見える。



※1「残業代ゼロ制度」 年収300万円以下の人も対象になるかは今後議論

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